
結局、高度経済成長期に行け行けドンドンでやってきて、バブル景気で調子に乗っていていたのがバブル崩壊からリーマンショックの舵取りに失敗しての景気後退。今更ゼロから再出発したくはないけれど既得権益も手放したくない団塊の世代が、自分たちの悠々自適な老後生活と、若い世代への景気を悪化させたままにした不満そらしに便利に使った言葉に思えて仕方がない。がむしゃらに働いても仕方がない。身の丈に合った暮らしでのんびりしましょう……と。
そんな個人の感想はともかく、きっかけになったのは紀行文学『南仏プロヴアンスの12か月』(1989)が世界的なベストセラーになったあたり。南仏が気に入って移住した英国人作家の日々の生活の物語です。
自宅を手に入れ改造し、地元の人々との交流、農作業、家庭料理やレストランを楽しむ毎日……スローライフの定義はないけれど、今の異世界スローライフものの要素はすべて詰まってます。
のんびり人生を楽しもうということだけれど、異世界ものでスローライフしようというと当然、現代社会以上に財力だか権力だか武力がないとできないわけで、異世界ファンタジーでスローライフをする話というと、いろいろ陰謀やら闘争に巻き込まれてせわしかったり、波瀾万丈になったりしていて全然スローライフでなかったりします。もしくは本当におだやかな田舎の日々が続いていて、読んでいてまったく物足りなかったり。
このバランスがいちばん巧くとれているのは『異世界のんびり農家』(2016)かな。主人公は本当に田舎でのんびり農家の仕事をしているだけなんだけれど、そのポテンシャルに周囲が恐れおののき右往左往する対比が面白いのよ。