
その存在理由はそれだけだ。
暴力を振るう男から逃れて、シドニーは娘のベイを連れて故郷のバスコムに帰ってきた。このアメリカ南部の田舎町には昔ながらの家系についての噂話が信じられている。ホプキンス家の男は年上の女と結婚する、クラーク家の女は床上手で男を惹きつける、ヤング家には町いちばんの力持ちがいる等々。シドニーのウェイヴァリー家は不思議な才があるというか、他人を呪うと言われていて彼女はそれが嫌いだ。嫌いと言えば、今は祖母の家に住んでいる異父姉も嫌いだ。でも、もうここしか彼女の行くところはない。少なくともベイを安全に暮らさせる場所は。
妹シドニーを迎えたクレア・ウェイヴァリーはパーティー料理のケータリングを業としていたが、彼女の本当の才はガーデニングにあったらしい……。
タイトルは正確には「林檎の樹の秘密」じゃないかなと思う、この話の唯一にして最大の幻想生物であるリンゴ。この存在がなければ、普通に南部の古い町を舞台に、行き違いから道を違えたアラサー姉妹の和解と新たな道を歩み始めるまでの青春物語であり、さまさまなカップルの愛の姿を描くロマンス小説なんですよね。これに、ガーデニングによるハーブや食用花を使った料理やらさまざまな才が指し示す道しるべが物語を彩ります。いや、もりだくさんの、軽く読める、ロマンス・ファンタジー。マジカル・リアリズムっていうのね。
話の鍵となるのは「ものごとがどこにあるべきか知っている」ベイ、そして予知能力「近いうちに誰かが何かを必要とすることが分かり、それを与える衝動にかられる」老女エヴァネル。それが役に立つことも立たないこともあるけれど、エヴァネルばあちゃんの渡したコインとか、ブローチとか、ポップターツとかが時には役に立ったり間に合わなかったり使えば良かったのに使わなかったりと物語の流れをどう変えていくのかわくわくさせられます。
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