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Channel: 付け焼き刃の覚え書き
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「生徒会探偵キリカS1」 杉井光

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「議会では野次が認められている。したがって議論の場ではない」
 生徒会長天王寺狐徹は真面目に語る。議会は議論をする場でないし、政治について何かする場でもないのだ。人の話を聞かずに議論ができるのか、そもそも全員が議論に参加しているわけでもない。だったら、いっそのこと潰してしまおう。

 生徒会長と議長の間では中央議会を来年には廃止することが決定していて、そのための根回しは完璧……のはずが中央議会に異変が発生。引退するはずの3年生議員が再選を果たし、可決されるはずの議題が次々に否決されていく。
 裏切り者は誰か? 何のために反対するのか? 料金体系を見直した《生徒会探偵》、聖橋キリカの調査が始まる……。

 あれやこれや作品外のところでゴタゴタしていたせいなのか、新刊が出なかった「生徒会探偵」シリーズが新章スタート。めでたし。生徒数8000人超の巨大学園を舞台にした生徒会ミステリ。
 してもいない約束を「忘れていた」と責められるひかげくんが気の毒と言えば気の毒ですが、鈍感だから仕方がないですね。

【生徒会探偵キリカS1】【杉井光】【ぽんかん⑧】【講談社ラノベ文庫】【ハイテンション学園ラブコメ・ミステリ】【巨大学園】【1票の格差】【うさぎ】【第九】【クリスマス】【鈍感系主人公】

「過疎ゲーが現実化して萎えてます。」 ぺり一

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「……返して来い! 拾ったところに!」
「ちゃんと育てるから! ね!?」

 最盛期でプレイヤー数が30名、最後には10名にまで落ち込んでしまい、その10人が十傑を名乗って好き放題に遊んでいたオンラインゲーム「聖樹の国の魔法使い」がサービス終了するのに2ヶ月を要しなかった。
 ところが、終了直後から、現実世界にゴブリンやら何やらファンタジー世界の怪物が出没し始め、十傑はそれがMMORPGのままであることに気がついた。いつの間にか、彼らのポケットの中にモンスターを召喚し使役するためのアイテム、魔石が入っていたのだ……。

 現代社会の秩序が崩壊し、人々が孤立していく中、過疎ゲー仲間の問題児たちがモンスターたちに立ち向かう……はずが、いつの間にか魔王軍の広報担当として敵の内部に潜り込み、好き放題に引っかき回す物語。

【過疎ゲーが現実化して萎えてます。】【ぺり一】【赤井てら】【Mノベルス】【抱腹絶倒の「小説家になろう」発バトルファンタジー】【爆死あり】【内輪揉めあり】【魔王幹部ちゃん】【twitter】

「異世界転移、地雷付き。3」 いつきみずほ

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「出てくるキャラが全部美少女なのは、ご都合主義のゲームや小説だけだ」

 ディオラさんの地上げも無事に終わり、ナオたちはついにラファンの街に家を持つことになったが、まだ資金が足りないとギルドで割のいい仕事を探す日々。普通だったら目標達成は先の話になりそうだったが、ナオやハルカの時空魔法や錬金術のレベルが上がり、マジックバッグの生産に成功したため、話は一気に簡単になりそうだ。
 その頃、街の近くではオークの目撃情報が増え、その危険性が検討され始めていた……。

 タイトルに「転移」とあるけれど、一度死んで、別の身体に生まれ変わったなら転生だよなあと思いつつ、赤ん坊に生まれて1からやり直すのと、別の身体を与えられて途中スタートするのでは「転生」「転移」以外の区分がいるよね。
 スローライフと言い切るほど、まだのんびりはできていないけれど、バトルファンタジーと言うほど殺伐ともしていないし、差し迫ってもいない。毎日まじめに働いて、たまには美味しいご飯を食べて一服する。そんな錬金術とオーク狩りメインで進む異世界ライフ。

【異世界転移、地雷付き。3】【いつきみずほ】【猫猫猫】【ドラゴンノベルス】【ほのぼの開拓スローライフ】【スネア】【カクヨム】【小説家になろう】【マジックキノコ】

「小説家になろう」とか

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 最近はライトノベル系文芸作品の大半は、まずウェブ小説で人気が出て、青田刈りのような状況で書籍化されて右から左に消費されるという状況で、そんな状態が良いのかどうかは別として読者としては山のようなレーベルから毎月何十と発売される新刊の内容を、まずウェブでチェックできるのはありがたいことです。
 序盤が面白くても、途中でダレる更新止まる、ワンパターンになる、タイトルを忘れて別方向に走るなど評価が変わりそうなものを事前にチェックできてソートできますから。
 そんなことを感じながら読みふけっている中から、書籍化されていないものを幾つか。

閣下が退却を命じぬ限り」剣崎月
 イヴは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の乙女ゲーム攻略対象者たちを除かなければならぬと決意した。イヴには政治がわからぬ。イヴは軍人である。銃を撃ち、猛吹雪と戯れて暮して来た。けれども浮気ものに対しては、人一倍に敏感であった……と、以上作品紹介まま。乙女ゲームのモブキャラに転生した主人公がシナリオのバッドエンドを阻止すべく奔走する物語。
 本編完結。そのクライマックスにタイトルがばーんっとはまるところが最高に燃えます。ざまぁ系恋愛小説というより、謀略系スパイ小説。でもコメディ色強め。青池保子のマンガとかタフな主人公が周囲の美青年たちにかまわず猛進する話が好きな人にお勧め。

イリアの世界」一集
 引きこもり令嬢イリアが弟とその仲間をかわいがり、彼らのために魔法を教えたりゲームを作って与えたりしています。けれど、本人はあまり自覚がないものの、イリアはチート級の転生者だったのです。いつしか弟たちは規格外の成長を遂げ、世界は次第に在り方そのものから変わっていきます。
 2章になって展開遅めの不定期更新になりますが、それでも面白さは色あせないので無事な完結を祈りつつ見守っています。

北海道に魔物が出たので地元ハンターが出動してみた」ジュピタースタジオ
 北海道のハンターシリーズ3部作の2つめで北海道の猟友会vs異世界モンスター。
 1つめの「北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた」がタイトルそのままの話の異世界転生で2巻まで書籍化されていますが、2つめの「北海道に魔物が出たので地元ハンターが出動してみた」が1作目のif話。もし最初の主人公が冒頭に熊に襲われて死んで異世界転生しなかったら、こちらの世界でどんな事件が起こっていたかという、銃刀法と猟師の関係とか、銃の管理や猟のやりかたなども含め、田舎のおっさんたちの戦いを、(猟師に撃つなと言いつつ自分たちは何もしないとか)役に立たない警察の横やりや役所の奮闘とか含めて描いたもの。

玉葱とクラリオン」水月一人
 バイトの合間にソシャゲで遊んでたら異世界に迷い込んでいたお気楽青年が、剣と魔法が支配する世界で現代人の知識を頼りに立身出世しようと目論む詐欺話が技術チートになり内政チート話になり、「よくあるパターンだよね」「2015年スタートなので、これがむしろ内政チートもののスタンダードを作った?」とか思いつつ、やたら火薬とか内燃機関の解説とかうんちくが長いよねと読み進めるうちに、いつの間にか戦記物になり、そのまま行くのかと思っていたらトロッコ問題もかくやという「大事な1人を救うか世界を救うか」という人類文明を賭けた話になり、最終的に魔法の存在する意味からゲームみたいなステイタス管理の謎まではっきりさせて、読後感はハインラインな全363話。
 胡散臭い男の双肩に人類文明が乗っかるあたり、ラザルス・ロングってところ。

ホラー女優が天才子役に転生しました」鉄箱
 交通事故死したホラー女優がそのまま転生。今度は子役として演劇界に乗り込んでいくサクセスストーリー。
 「身体は子供で頭脳は大人」なやり直し系転生はそこそこ多いけれど、大半はスポーツものか学園もの。子役ものは意外に少なく、面白いものはさらに少なく、まともに連載が進んだり完結したものはほぼ皆無じゃないかというなかで楽しみな新作の登場。
 演技の面白さ、奥深さがきちんと描かれ、前世もホラーや死体専門と言っても、知る人からはその演技力を高く評価されていた主人公が美少女として転生。努力の秀才が恵まれた天才として新たな人生のスタートを切り、そこから前世で知り合っていた人たちとの再会していくなど物語としても面白くなりそうな序盤です。

不思議の国の海兵隊 #MCWL」高城拓
 合衆国海兵隊に志願した若者が、過酷な訓練過程を経て成長するが、訓練過程修了間際に同時多発テロが発生。彼らは敵も味方もはっきりしない戦場に投入される……という話をスライム視点で描いているのは「衛生兵と書いてスライムと読むことの何が悪いってんだ?」という副題の通り。「宇宙の戦士」をファンタジー風に軽くアレンジして、主役を海兵隊の衛生兵にした話です。
 鬼や吸血鬼が人間と混じって生活している世界で、非正規戦に投入された若き海兵隊の青春譚。ただしスライム。こちらは「なろう」ではなく「セルバンテス」連載です。

俺の音楽ここにあります!」たけのこきのこ
 売れないギタリストが死んだと思ったら時間を数年遡り、女子中学生の身体に心が入り込んでしまったことから始まるガールズバンド・ストーリーが185話で完結。時間遡行のTS入れ替わりものとしては綺麗に面白く終わりました。普通の女子高生に、マニアックすぎてひとりよがりになっちまったテクニシャンが取り憑いた話の結末は前向きにハッピーエンド。

とある魔球のダウンザライン!」うるめいわし
 こちらもTS転生の人生やり直しスポーツもの。
 挫折したテニス選手が、気がついたら引退したテニスプレイヤーの娘に生まれ変わっていて、もう1回テニスプレイヤーとしてグランドスラムで優勝を目指す!という話。軽いノリのスポーツ小説で、あまり長く続けてもテニスの試合って描写が似たり寄ったりになるよねとジュニア編109話で完結。今はぽちぽち外伝の日常編が続いてます。

 タイトルがやたら長いのは「ガリバー旅行記」や「ロビンソン・クルーソー」からの伝統ですが、そのタイトルが「××したら××になっちゃいました」とかキャッチーな導入部の設定だけしか表してないものは作者が結末まで想定して書き始めていないのか、途中でおかしくなることが多いです。テーマが定まってない感じ。
 「本好きの下克上」とか「魔王の副官」とか、作品のテーマとか結末を暗喩するようなタイトルの方が、完成度が高くなる気がしますね。

私的年間ベスト2019

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 今年も歳の終わりに振り返り、この1年で楽しませてもらった書籍を幾つか覚えに残しておきましょう。

『ノームの終わりなき洞穴』 山鳥はむ
 遠征資金稼ぎのために宝石鉱山を採掘していたら、周囲の村人や冒険者が勝手に入り込んでは警備の魔物に殺され続け、そのせいで自分の採掘している鉱山がダンジョンだと噂になってさらに一山当てようという冒険者たちが集まる悪循環の物語。
 基本的に、欲に駆られた冒険者たちが洞窟に潜っては殲滅されるの繰り返しなんだけれど、そこを巧く面白く読ませ、ウェブ版の最終章は壮大な英雄叙事詩となって幕を閉じます。

『信長の庶子』 壬生一郎
 家督相続権のない庶子に生まれながら、不思議な知識を持つ母親の教育で、織田家にその人ありと知られるようになっていく織田帯刀の出世譚。
 転生知識チートは、なにも本人が使わなくてもOKだよねとか、竹簡で同人誌発行みたいな小ネタに走りつつも、物語としてはあくまで群雄割拠の戦国時代の冒険譚で、改編歴史物として完璧な本造りも魅力。

『ダンジョンクライシス日本』 緋色勇希
 日本各地でに迷宮が出現し、自衛隊と米軍による封鎖が続く時代。ひょんなことから迷宮の向こうに通り抜けてしまった元自による、往きて還りし物語。
 小説家になろう発のハヤカワJAの1冊で、なんでもかんでも萌えイラストつけりゃいいってもんじゃないよという1冊。続くといいな。なにげに名古屋界隈のご当地SFだったりします。

『異世界転移、地雷付き。』 いつきみずほ
 修学旅行のバス事故でクラス全滅のところを邪神に救われ異世界転生。ところが邪神の警告を無視して安易にチートスキルを取得したクラスメイトは、巻き添え自爆必至の地雷みたいなもの。そういうわけで、ナオたち親友5人は可能な限り他の地雷クラスメイトに関わらないよう、地味に、堅実に、安全第一で生きていこうとする……。
 異世界転生のスローライフな共同生活もの。派手なところはないけれど、特に暗く重いストーリーでもなく、他の話ならクラスメイト同士で敵対したり支配したりする展開になるところが、地雷付き転生者たちは勝手にどんどん、あまり主人公たちと関わらないところで爆発していきます。リアルな中世風社会の暗黒面は主にそちらが担当。その間にナオたちが1つずつ実績を積み上げ、少しずつ装備を更新し、一歩一歩着実に生活改善を続けていく姿が楽しいですね。派手な英雄譚ではなく、チート頼りの開拓話でもないですが、ほどほどに順風満帆なストーリー展開の起伏がベストバランスです。あとはタイトルにある地雷がほとんど爆発した後、話にどう結末をつけるかってあたりでしょうか。

『悪役令嬢の監獄スローライフ』 山崎響
 乙女ゲームのお約束みたいなもので、公爵令嬢レイチェルは身に覚えのない罪を理由に王子との婚約を破棄され、地下牢に投獄されてしまう。ところが、レイチェルは逆に地下牢の鍵を内側から施錠し、事前に持ち込んだ食料や贅沢品をふんだんに使った監獄ライフを堪能する。誰に頼まれたって出てやるものかと。その間にも、勝手な理由で婚約破棄した王子への圧力は高まり……。
 ひとことでいうと「プリズンイエーーーーーッ!」なハッピーホリデー・コメディ。さらば、王妃教育に追いまくられていた日々よ。ワンアイデアで上下巻という収まりの良さもポイントです。

『スコップ無双』 つちせ八十八
 宝石鉱夫のアランは、ひたすらスコップで穴を掘り続けていたが、採掘100年目のあるとき、なぜかスコップから岩石溶解ビームが出た。これで今まで堅くて掘れなかった岩盤も抜けるとさらに掘り続け、1000年目にはビームは波動砲に進化していた。地道な採掘の経験値は、本人も知らぬないうちにアランを最強のスコップ使いにしていたのだ……。
 スコップ使いの超人が主人公で、新興宗教の教組がヒロインで、波動砲が必殺技のファンタジー小説。世の中のたいていのことはスコップでなんとかなる。ちなみに1巻は「シャベル無双」とのコンバーチブル表紙。

『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』 黒留ハガネ
 ひょんなことから超能力が身についた主人公。ところが能力を磨きながら待っていても何も事件は起きないし巻き込まれない。世界の闇の存在もなければ、それと戦う組織もないというなら作ってやるぜと決意した。そこに同じく厨二心を大事に抱える整形美人(美容への並々ならぬ情熱と努力)のお金持ちヒロインをスポンサーに迎え、「世界の闇」とそれと戦うための「秘密結社」を作り始めるのだ。
 本物でなくてもホンモノと同じくらいステキなものを生み出したなら、そこに何の違いがあるというのだろうか。
 書籍版は2巻で中断。ウェブ版のようにせめてワールドワイドに展開するところまではやって欲しいものです。

『異世界国家アルキマイラ』
 VRシミュレーションゲーム『タクティクス・クロニクル』をプレイしていたら突然の地震。天災イベントかと確認してみれば、ゲームにおける自領丸ごとリアルに異世界転移していた。自分は戦闘力が皆無の脆弱な人間のままだけれど、周囲の部下は一騎当千の魔物ばかり。まかり間違って忠誠度が下がればひとたまりも無い。さらに樹海の外では人間とエルフの国家間での紛争が激化している。中身はまだ20歳前の大学生に、この状況に王として立ち向かえというのは、あまりに酷な話であった……。
 ゲームしてたら異世界転移して魔物ばかりの国家を指揮して戦うというと『オーバーロード』とか真っ先に思い浮かびますが、こちらは主人公の中身も器も人間なので冷酷に割りきれず、あれこれ苦悩しながら成長していきます。大学の授業はしっかり聴いておくもんです。

『サラリーマン流 高貴な幼女の護り方』 逆波
 武術の経験はないけれどネゴやプレゼンなどビジネススキルだけはやたら高い青年が、事件に巻き込まれたことで異能覚醒。刀剣を主武器とする異能エージェント集団に迎え入れられ、甘えることを知らない幼女の世話をし、意識高い幼女に諭され、政治的に危険な立ち位置にある幼女を大陸のスパイやらテロリストから護る話で、つまりはボディガードと王女様もの。
 1巻ごとにストーリーが完結し、テンポ良く、飽きさせない構成は見事。今は2巻までしか出ていないけれど、ウェブ版ではほぼ1巻分ごとに1人高貴な幼女が増えるので、ちょうどきりのつく3人目までは刊行して欲しいものです。

『異世界転生…されてねぇ!』 タンサン
 人助けで死んだ高校生が転生しそこない、チート能力を持ったまま元の世界で生き返ってしまったけれど、現代日本も裏では陰陽師や超能力エージェントの抗争が繰り広げられていて、そこに異世界で暴れ回るはずのチート能力者が第三勢力として殴り込んでしまう話。
 基本はスローライフなスクールライフなので、着々と強くなっていく主人公の言動がツボ。

『ハズレ判定から始まったチート魔術士生活』 篠浦知螺
 異世界の王国が戦力不足を補うために異世界からの召喚を強行。ある中学校の2年生が学年丸ごと召喚され、隷属の首輪で奴隷化されたけれど、国分健人だけハズレで使い物にならないと王女によって魔物だらけの密林に放り出され死にそうになる。でも、実は健人こそチートな能力の持ち主で……と、典型的な集団異世界転移もので、宣伝もその路線で押してるんだけれど、展開が早くて、起伏が激しくて、この手の話としてはかなり面白く、右も左も分からない異世界での足場固めと同級生救出作戦の二本立てでてんてこ舞いの展開に飽きずに読んでます。
 ただ、あまりに最悪な出会いの王女が後にヒロイン候補に挙がってくるものですから、書籍版ではちょこちょこ「あんな悪辣な真似をしたのにはやむを得ない理由があるのだ」と言い訳を前倒しにしてるので、そのあたり不自然になってます。そこまで本人も周囲の人間もそんな極悪人ではないというなら、死人が出る前になんとかしろよと。そういう意味ではウェブ版の方がしっくりきます。

『悪役令嬢レベル99』 七夕さとり
 ドルクネス伯爵家令嬢ユミエラ・ドルクネスは5歳にして覚醒した。自分がRPG要素の強い乙女ゲーム「光の魔法と勇者様」通称「ヒカユウ」の世界での悪役令嬢に転生していたことに気がついてしまったのだが、そこで前世のゲーマー魂に火がついてしまった。両親から放置されていたのを幸い、書庫で書を読み、野山で魔物を狩り、ゲームの舞台である学園に入る頃にはレベル99となっていたが、これは理論上のレベル上限。魔王討伐の推奨レベルが60である……。
 バランスブレイカーの裏ボスに転生した主人公が、ゲーマーの血が騒ぐままにレベル上げしていくうちに、なにが常識でなにが非常識か分からなくなってしまい、自分の基準で周囲を引っ張り回す話。彼女の「ちょっと危ない」は普通の人の「命の危機」。
 基本がワンアイデアのバカ話なので、ほどよい長さできりがついているあたりもお薦め。


 乙女ゲームの悪役令嬢転生ものというのは、そもそもオリジナルがほとんど見当たらないのが特色。他のファンタジー系創作などは、明らかにドラゴンクエストとかD&DとかFFとかメジャータイトルがあり、そこに起因するお約束が共通認識としてあるから成立しているわけですが、乙女ゲームにはそれがありません。確かに主人公のライバルとしての悪役令嬢が登場するゲームがないわけではないようですが、いざ具体的なタイトルを挙げようとするとあまりメジャーでないものが1本か2本……というくらい。それがちゃんと「悪役令嬢の登場する乙女ゲーム」というものに対する共通認識ができているのが不思議です。
 むしろネタ的には昔からの少女マンガの方に起因するらしく、2013年スタートの「謙虚、堅実をモットーに生きております!」が少女マンガ転生で、今も「小説家になろう」累計ランキングベスト10に入っているこの作品あたりから増えていったと聞いています。これは確かに面白いもの。連載が中断して2年以上かあ……小学校入学前から始まって、もう高校卒業間近。3年生の夏休みの花火大会直前と、クライマックス目前で途絶えて待つ身は辛いです。もう何回、最新話まで読み直していることか。
 新年こそは更新を期待したいものですね。

「ウルトラQ Vol.5」 円谷プロ

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2020年は挑戦!
 あけましておめでとうございます。
 うわー、2020年ですよ。人類がどんな状況に陥っているかまったく分からないと言われた2020年ですよ。う、わー。本当に2020年だよ。

 さて「ウルトラQ」は、日本初の特撮テレビ番組であるけれど、ウルトラマン以降のヒーローもの、怪獣ものではなく、さまざまな不思議や怪奇、アンバランスゾーンに遭遇する普通の人間の物語です。再放送で「ウルトラ」と名が付くから怪獣の登場するヒーロー番組だと思ってテレビを点けた子供は、ドッペルゲンガーや幽霊屋敷、ドアが開かない電車に絶叫することになります。
 主役というか物語の語り手は、新聞社の女性カメラマンである江戸川由利子、彼女が空撮や出張などで利用する星川航空のパイロットの万城目淳とその助手の戸川一平の3人。これに、なんでも知っていて、警察の検問もフリーパスの一の谷博士が加わって話が進むわけですが、必ずしもいつも全員出てくるわけじゃなく、「カネゴンの繭」の回なんか誰も登場しないもんなー。でも、この時代は、報道関係者が正義の熱血漢として行動していて何の疑問も起きなかったのです。いまやフィクションの新聞記者といったら、思想的に偏っていて、事実をねじ曲げて報道するチンピラ扱いばかりだもの。

 この巻は怪獣や宇宙人の登場しないデイストピアSF「1/8計画」や人間消失事件に挑む「2020年の挑戦」などが収録されています。巨大怪獣から海底人までなかなかバランスの良い巻です。

【ウルトラQ Vol.5】【8分の1計画】【虹の卵】【2020年の挑戦】【海底原人ラゴン】【円谷プロ】【佐原健二】【桜井浩子】【西條康彦】【江川宇礼雄】【田島義文】【放射能】【時間旅行】【人口過密対策】

「ゆうきまさみの新しい世界」 ゆうきまさみ

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 アニメ「機動警察パトレイバー劇場版」1作目の公開に合わせて刊行されたムックで、劇場版のカットやコンテを使ったストーリー紹介、スタッフやキャストのインタビューや対談などが満載なのだけれど、副題に「ゆうきまさみの新しい世界」とあるように、押井監督ではなくゆうきまさみメインで構成されている、今となっては珍しい例。ゆうきまさみによる泉野明の思い出アルバムとか、最初のOVAに合わせて発表されたコミックのパイロット版の再録とかが印象的です。
 巻頭にセル画を再現したイラストが挟まっているのも、この時代ならでは。アニメのセル画を模したプラスチック製イラストをムックの折り込みに入れるのが、このあたりまでのアニメムックの流行りなのでした。

【機動警察パトレイバー・劇場版―ゆうきまさみの新しい世界】【少年サンデーグラフィック・スペシャル】【小学館】

「羅小黒戦記」 監督・原作:MTJJ

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「僕はただ森へ帰りたい」

 現代社会にも妖精は存在している。
 黒猫の妖精羅小黒(ロシャオヘイ)は、人間の開発によって棲み馴れた森を追われ、安心して暮らせる場所を探してあちこちを放浪していたが、人間に襲われていたところを同じ妖精のフーシー(風息)に救われた。そして、連れて行かれた孤島の森で、そこに隠れ棲む大勢の妖精と羅小黒は知り合い、新しいお家を手に入れたのだ。
 しかし、落ち着くまもなく森は妖精を狩る執行者ムゲンに襲撃され、羅小黒は妖精たちと離ればなれになってしまう……。

 2011年からYouTubeなど動画サイトで公開されている、猫の妖精の冒険を描くウェブアニメの劇場版。ただ、日記まんがというかおまけアニメ的にシンプルな絵柄のウェブ版に対して、こちらは絵柄からして別物。「機動警察パトレイバー」でいえば、the movieとミニパトくらい違います。ストーリーは、ロードムービーでバディもので師弟もので異能バトルになっていて、「ナルト」と「イナズマイレブン」を足して「平成たぬき合戦ぽんぽこ」を掛けたようなストーリー。中国アニメだけれど、日本アニメの良いところの影響を強く受けてますね。
 名古屋で公開しているのは、席数40のシネマテークのみ。それでも、正月2日から満席で、学生時代は常連だった妻に言わせると「ありえないくらい女性客が多い」。うん。大人のおねえさんが多くて、「良かった! また来る!」と言いながら帰って行きました。緩急が付いていて分かりやすいストーリーに魅力的なキャラ、ユーモラスな芝居に派手なアクション。吹き替え版にしたら子供でも楽しめそうです。
 円盤出ないかなー。

【羅小黒戦記】【ロシャオヘイセンキ】【THE LEGEND OF HEI】【MTJJ】【寒木春華スタジオ】【空飛ぶイカダ】【AKIRA】【ナタクのトレードマーク】【無銭飲食】【免許はない】【スマホは防水じゃない】

「北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた2」 ジュピタースタジオ

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「太陽さんに恥ずかしくないように生きること。それがエルフの信条!」

 狂暴化したヒグマに襲われそうになっている子供を助けて命を落とした地方公務員、中嶋進はエルフの嫁をもらい、エルフの村の狩人として生計を立てるようになっていた。そして、定期的に交易品を持って人里に降りると、他に同じ道具を使う者がいないスゴ腕の狩人としてハンターギルドに頼られている。
 しかし、ハト退治くらいなら空気銃でちゃちゃっとできるけれど、街の城壁を壊しにかかっている巨大スライムとか一筋縄ではいかないし、魔王を復活させようとする魔女の陰謀とか、教会に敵対する貴族の暗殺事件とかまでなんとかしろというのは、いくらなんでも無理ありすぎではなかろうか……?

 実銃ウンチク&狩猟知識満載ではありますが、その合間合間に銃規制するばかりの警察やハンターの仕事に無理解で理不尽な要求ばかりする市民への愚痴が混じります。全体的にはテンポの良い、異世界に馴染んだ兼業ハンターの狩猟日誌。
 エルフってカッコ良さそうだけれど、よくよく特徴だけを抜き出せば「偏屈な田舎者」とか時々言われますが、ここのエルフの村がいかにもな「昔ながらの風習が残る僻地の農村」といった有様なのがそのまんま。閉鎖的で古い因習に囚われてというよりも、水浴びとか初夜とか獲物の分配とか、牧歌的でおおらかという面が強いですけれど、こういう村だからこそ主人公の居場所になったんですね。
 本編でのスライムの生態レポートはしっかり書式を整え、背景を差し替えてのレポート形式になってます。こういう面で配慮ができている本作りをしているところは、きちんと奥付に編集者名が入っているんです。ちゃんと仕事をしている人の実績ですね。たとえばMMORPG話の「(^^;)」とか「ノシ」とか顔文字などが入る掲示板回をそのまま本文と同じ縦書き表示にするような雑な作りの本では、不思議と奥付に編集者の名前が入りません。

【北海道の現役ハンターが異世界に放り込まれてみた2】【ジュピタースタジオ】【夕薙】【ガガガブックス】【頼れるエルフ嫁と送る異世界ライフ】【ハト駆除】【スライム退治】【魔王復活】【対狙撃手戦闘】【人狼退治】【スナイパー】【日本刀】

「エロマンガ先生12」 伏見つかさ

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「いまごろ来て、目当ての同人誌が手に入るわけないじゃない」
 マサムネとエルフは、冬のコミックイベントにサークル参加することになった。

 恋人同士になったマサムネと紗霧の前に、山田エルフが現れて言い放った。
「ここでわたしが勝ったら、超面白いと思わない?」
 現実は物語と違う。諦めない限り、何も終わらないのだ。
 そもそも紗霧以外になびく気はないマサムネだが、紗霧をさらに可愛くし、兄妹の創作者としての実力を引き上げようというエルフの提案を断ることは2人にはできなかった……。

 創作者の苦悩と工夫と努力を軸にしたラブコメも、決着がついたかと思いきや、そのまま止まらず12巻に突入。物語は「めでたしめでたし」で作者が筆を止めればそこで完成だけれど、現実は終わらないし止まらない。そういえば、昔、新井素子が真のハッピーエンドはお姫さまと王子様が結ばれてめでたしめでたしの瞬間に頭上から大きな石が落ちてくることと書いていたけれど、今思えば慧眼だよね。『いつか猫になる日まで』だったかな。
 エルフ先生、怒濤の巻き返しが始まります。

【エロマンガ先生12】【山田エルフちゃん逆転勝利の巻】【伏見つかさ】【かんざきひろ】【電撃文庫】【兄妹ラブコメ】【冬コミ】【シェアードワールド】【合同誌】【ツンデレ】【婚約者】

★カバーの変更・新装版とか

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 マンガやアニメの絵柄の表紙でジュニア向きに売り出していた本が、地味な装丁にしてアダルト向けに売り出したり、逆に地味目の表紙で出していたものを映像化の際に表紙変更したりすることはままあります。内容そのままで講談社文庫から青い鳥文庫まで通用してしまう宮部みゆきのように、内容よりはパッケージで対象年齢が変わる/広がる一面もあるのかな。
 そういうわけで、定期的な虫干しです。

『塩の街』有川浩
 有川浩のデビュー作で、ハードカバーは純文学っぽい装丁でありながら、実は自衛隊が怪獣と戦う「自衛隊三部作」の1作目。ただ最初の『塩の街』はいかにもな少女マンガテイストのイラストで文庫が刊行され、その後ハードカバーになりましたが、続く『空の中』『海の底』ではハードカバーが先行して、数年してから文庫化してます。また、作中の恋愛要素を抜き出した外伝的な短編も、さりげなく恋愛小説枠で刊行されてます。

『ステップファザー・ステップ』宮部みゆき
 プロの泥棒が育児放棄された中学生の双子の兄弟の親代わりをさせられる疑似家族ミステリは、最初は地味な表紙の一般文芸で刊行されたのが、いつの間にか荒川弘のイラストの新装丁が登場。さらには難しい漢字にルビを振るなどしただけで青い鳥文庫に登場と、読者層を広げていました。

『若き人々への言葉』ニーチェ
 なら、表紙をラノベっぽくすれば何でも良いかというと、ニーチェなんかでやっちゃってたりしますが、これで「若き人々」に言葉が届いたのでしょうか? 売上がどれだけ増えたか気になります。

『堕落論』坂口安吾
 ただ、集英社文庫は定期的に学生向けにマンガ家等をカバー絵に登用したリニューアルを定期的にやっていますので、それなりに需要はあるのかもしれません。

『彩雲国物語』雪乃紗衣
 古代中国によく似た帝国で初めての女性官吏になった少女の物語。最初は角川ビーンズ文庫から少女向けに。やがてコミック化され、映像化され、落ち着いた装丁で角川文庫から登場します。ただ、これもグインサーガと同様、途中から作者がサブキャラに入れ込みすぎて全体のバランスが狂ってしまったような印象があります。みんな、美形で陰険な陰謀家キャラが好きすぎです。

『エンダーのゲーム』オースン・スコット・カート
 昔のハヤカワ文庫は映画化だなんだとシリーズ途中でも表紙イラストを一新して不評でした。このミリタリー・学園SFでも映画化などに合わせて何度も表紙イラストを変更していますが、このあたりになると「文庫カバーとほとんど同じ大きさの宣伝帯」というブレイクスルーがあり、カバー変更したように見えるけれど実は帯をかけただけでした!……というパターンが増えます。「氷菓」とか。

『舞面真面と仮面の女』野崎まど
 スゴいSFだ! 斬新なミステリだ!と思わせ読ませておいて、案外と本質はバカミス、ホラ話のような気がする野崎まどの作品群。そのデビュー2作目のマイヅラマトモも最初はメディアワークス文庫からアダルト向けの狐面イラストで登場。最近の新装版でセル画調に処理された森井しづきのイラストで統一されました。スタイリッシュですね。

『2』野崎まど
 その一新されたメディアワークス文庫版作品群すべての2作目である『2』も合わせて登場。確かにこれなら、物語の舞台が共通の世界であることが分かりやすいですね。タイトルを見て、なんのことだか分からない作品で、これだけ読んでも何が2だかわからない。『[映] アムリタ』から『パーフェクトフレンド』まで全部読んで初めて分かるタイトルです。

『幽霊塔』江戸川乱歩
 ベンジソン夫人の『ファントムタワー』だかアリス・M・ウィリアムソンの『灰色の女』を(諸説あり)、明治時代に黒岩涙香が好き勝手に翻案し、それをさらに昭和になって江戸川乱歩がリライトした作品です。それをさらに原作大好きな宮崎駿がコミック付きでイラストを描いて平成になって復刻。イメージがぜんぜん違うわー。

『野獣の都』マイクル・ムアコック
 最後にハヤカワSF文庫から「永遠の戦士ケイン」シリーズの『火星の戦士』1作目。エルリックからホークムーンまで、同じ作者の書いたヒロイックファンタジーのシリーズがいろいろあるけれど、実は主人公は生まれ育ちは違っても同一存在、戦士エレコーゼの化身なんだよ!というエターナル・チャンピオンシリーズに含まれます。そのイラストは、いかにもラノベ的な装丁の元祖というか本家。最初の松本零士から天野喜孝を経て最終的に佐伯経多&新間大悟となるわけですが、普通の学者が実験の失敗で異世界に飛ばされ、なぜか美女と出会って無双するストーリーもラノベ的展開なので、松本版がいちばんしっくりしますね。

「役立たずスキルに人生を注ぎ込み25年、今さら最強の冒険譚 [緑樫の章]」 しゅうきち

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「水は残っているか?」
「半分あるよ!」
「小便は済ませたか?」
「さっき、行っといたよ!」
「調子はどうだ?」
「うん、申し分なし!」
 トールの問いかけにソラは調子よく応える。

 トールは役立たずと言われるスキルしか持たない底辺の冒険者。周囲からバカにされつつ、スライムを狩り続けて25年。それもただ確実に、この不遇スキル〈復元〉を育て上げるため。怪物に襲われ、仮死状態となった幼なじみ・ソラを救う可能性は、それしかなかったのだ……。

 元より勘と経験だけは達人級ながらスキルが役に立たず、ゴブリンにさえ苦戦していた男が、育て上げたスキルで第2の人生を歩み始める物語。不遇スキル=最強ものにありがちな、「そもそも、そのスキルを不遇と判断したのが軽率で不自然じゃない?」というところがなく、ウサギとカメのウサギが、ゴールインしたら火を噴きながら空を飛び始めたような話。今まで苦労した分、幸せになって欲しいねえ。25年間、単調な同じ仕事を繰り返した後での「俺は冒険をしてみたい」と言う言葉にグッときます。
 イラストも巧くて、ストレスなく物語りに引き込まれます。

【役立たずスキルに人生を注ぎ込み25年、今さら最強の冒険譚 [緑樫の章]】【しゅうきち】【peroshi】【カドカワBOOKS】【最強のセカンドライフ】【不遇スキル】【年の差】【大発生】

「人狼への転生、魔王の副官13」 漂月

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「人間は非論理的すぎますからな。いや、感情に支配される場面が多いというべきか」
「そうだな。しかしその是非を問うのは無意味だ」
 バルカン人のような言いぐさの魔王軍技術総監クルツェと、それにボーグのように応える皇帝エレオラ。

 “黒狼卿”ヴァイトと“魔王”アイリアの娘フリーデは、幼馴染のユヒテ、シリンとともに北の帝国ロルムンドへの使節団の一員として派遣された。そして彼女らは女帝エレオラが統治する氷壁の帝国の各所で、父ヴァイトの伝説に触れては困惑する。
 そんなフリーデのもとに、エレオラの姪であるミーチャがやってくる。皇位継承順位が1位の皇女だ。同じく次期魔王のフリーデ王女に会いに来たというのだが、フリーデは王女でもないし魔王になる予定もなかった……。

 皇女の名前がミーチャというだけで涙腺崩壊の13巻。
 主人公とヒロインの娘を主役にした新章というか、次世代キャラと本編キャラが交錯して後日譚を語る第二章。立身出世を果たした護帝十四将の困惑ぶりと活躍に歳月が流れたなあと感慨にふけりました。なし崩しに展開したあれやこれやが、すべて昔話の英雄譚なのです。
 ウェブ版にロルムンド訪問時に遭遇した事件のエピソードを追加の2割増量で、風紋砂漠編まで。ウェブ版の量からすると次巻で完結のはずだけれど、果たしてどうなるか。イラストは巧いけれど、キャラメインで情景があまり描かれないのが残念。冬のロルムンドとか、風紋砂漠とか観たいのに。

【人狼への転生、魔王の副官13】【二人の姫】【漂月】【手島nari】【アース・スターノベル】【小説家になろう】【転生ファンタジー】

「乙嫁語り12」 森薫

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「できる者、やりたい者がやればいい。彼らがやろうと、私がやろうと同じことです」
 異国の人間がわざわざあちこちの土地の言葉や文化や記録することが必要なのかと言われた言葉に対してのヘンリー・スミス。

 19世紀後半の中央アジアを舞台にイギリス人旅行家ヘンリーを狂言回しとして、年少の美しい嫁「乙嫁」たちの生活を描いた物語ももう12巻。今回は今までの物語に登場した乙嫁たちの暇な一日を描いた「閑暇」など全9編。表紙は爆乳乙嫁と夢乳乙嫁の姉妹妻……というか百合妻。
 パリヤさんはあいかわらずパリヤさんで安心しました。

【乙嫁語り12】【森薫】【ハルタコミックス】【乙嫁ミーツ乙嫁】

「フシノカミ1」 雨川水海

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「本ですよ、本! 楽しむものに決まっているではありませんか! 楽しんで楽しんで、何も考えずに楽しむ時間がなければとてもやってられませんよ。この世知辛すぎる世界!」
 こんな何もない村の暮らしで本なんか読んで何の役に立つかと聞かれたアッシュの返事。

 2000年前にはスゴい文明があったらしい。1000年前だってかなりのものだったと聞く。しかし、今となっては中世暗黒時代並みの生活で、冬が来るたびに飢えや病気で村人が何にも死ぬのが当たり前……それが辺境の寒村に暮らす少年アッシュには、なまじ前世の豊かな生活の記憶があるだけに耐えきれない。
 しかし、村の教会や大都市には本があり、それを読めば古代文明の知識の断片を知ることができる……とはいうものの、村には字を読める者がほとんどおらず、読める者にも読む気も時間もなく、アッシュ自身、文字を読むことができなかった……。

 心に抱くべきは絶望ではなく決意なんだと、スローライフするためにチートな頭脳をフル回転させる少年の成長譚。こういうパターンの話そのものは珍しくはないけれど、そのひねり方と書き込みが面白く、目が離せないシリーズ。その1巻はひとことで言うと、「人間らしいことを、人間離れした規模で行う、人間の怪物」と評された主人公と、その手綱を握り、心に楔を打ち込んで制御しようとするヒロインの母親による本好きの下克上への第一歩。
 豊かな生活を手に入れる為の知識はそこにあるんだ! 誰も読まないだけで……。

「恋は戦いよ! そこにはルールもなければ、審判もいない。泣いても許容されることはなく、膝をついても慈悲は与えられない!」
 マイカの母、ユイカ夫人は娘マイカに力説する。

 ヒロインのはずのマイカより、母親の方がインパクト大な導入部です。

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「英雄魔術師はのんびり暮らしたい」柊遊馬

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--オレと契約して魔法使いになってくれ。
「詐欺かっ、ちくしょーめ!」
 契約を持ちかけたら、いきなり詐欺師呼ばわりされてベルさんは面食らう。

 28歳の時友迅は、異世界の大帝国にいきなり召喚されたかと思うと魔法武器の材料にされそうになり、暴食王と契約して魔法使いとなることで脱出。ジン・アミウールを名乗って、大帝国と戦争状態になっていた連合国陣営に加わって活躍したが、打倒帝国を目前にして、今度はその力を危険視した王国から命を狙われてしまう。
 そこで、ジンは死んだことにして逃走。大帝国とも連合王国とも関係ない国でスローライフを堪能しようとするのだが、そこでもいきなり王位継承を巡る争いに巻き込まれてしまう……。

 異世界に誘拐され殺されそうになり、逃げ出した先でまた殺されそうになった色ボケ天才魔術師が、相棒の黒猫ベルさんとスローライフをめざしてクソ忙しい日々を送る物語。
 話は面白いし、イラストは完璧なんだけれど、最近のウェブ連載分が戦争メインでストーリーが停滞しがち。軽快でテンポの良いストーリーが魅力なのに、空気の重い戦記パートに話が偏りがちで、持ち味が死んでしまわないか、ちと心配。

【英雄魔術師はのんびり暮らしたい~活躍しすぎて命を狙われたので、やり直します】【柊遊馬】【あり子】【TOブックス】【ものづくり・ファンタジー】【小説家になろう】【マ車】【ミスリル精製】【ぽんこつエルフ】【デート】

「ろぼっとばとる」 ディプロマシー友の会

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 大掃除をしていて、未使用の同人カードゲームを発掘。80年代後半に主にSF大会のディーラーズ・ルームで頒布されていて、仲間内で流行っていた「ろぼっとばとる」カードゲームの93年版追加カードです。
 この「ろぼっとばとる」、マイナーからメジャーまで、アニメ・特撮から小説・マンガまで、ロボットと名のつくものなら何でも対戦できるという同人ゲームです。後のゲームボーイ版『スーパーロボット大戦』シリーズと同様、大きなロボットは強いけれど、小さいロボットは当たりにくいという形ですみ分け。ロボット独自のオリジナル技は2つまでだけれど、マイナス技があっても2つまで。こうした制約の下でダイスを振り合ってダメージ判定を積み重ねていくわけですが、いくら巨大ロボにはケタ外れに大きいものがあるといっても、今川版ジャイアントロボとロボット三等兵が同じ小クラスというのはなんだかなー。
 でも、見たいよね。ロボット三等兵とジャイアントロボの殴り合い。


【ろぼっとばとる】【ディプロマシー友の会】

「本好きの下克上ふぁんぶっく4」

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『鳴き声:ディッターしようぜ!』

 今回も表紙イラストや口絵をカラーで収録。CDジャケットやジュニア文庫版まで収録されているので、椎名優のイラスト目当てにTOジュニア文庫まで買おうかどうか迷っていた自分には福音。
 今回はアニメ化に合わせた美術設定、神々のデザインやドラマCDのアフレコレポートなども満載。

【本好きの下克上~司書になるためには手段を選んでいられません】【ふぁんぶっく4】【香月美夜】【椎名優】【しいなゆう】【鈴華】【TOブックス】【ビブリア・ファンタジー】【四コマ漫画】

「野生の聖女は料理がしたい!2」 枝豆ずんだ

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「私まだ六歳児なのでッ! こう、安全とか安定とか平和とかより冒険がしたいッ! 異世界料理勉強したいッ! よくよく考えたらこの体になってから新しく知った料理ってラグの木のスープオンリーッ! あと皆応用じゃん!」
 異世界に来て、未知の食材で美味しい料理を生み出しながら何も満足できていなかったことを自覚したエルザ。自分が料理を差し出すのではなく、この世界が料理を差し出せ、まだ学ばせろと。

 ドゥゼ村の結界を張り直したエルザは、今後はきちんとした食事がとれるようにと、村の改革を進めていくが、そもそも原始共同体的な村ごと家族みたいなドゥゼ村では「飲食店」は成立しないのだ。
 飲食店が成立するには、外から客が来ないといけない。ところが、交易のためにトールデからやってくるはずの商隊がいつまで経っても到着しないのだ……。

 タイトルは「野生の聖女は料理がしたい」。主人公に分別がしっかりついて野性味がなくなったり、料理以外に大切なものができたとしたら、そのときは物語が終わる頃合いなのでしょうが、まだまだそんな気配はありません。今回は、朴訥な村人ばかりの村もそう作られてましたってところから始まりますが、あれもこれも気にせず、村にやってきた悪魔商人に「牛ください」とツッコむ銀髪幼女と極悪魔王の物語。
 他人から見たら手段と目的がひっくり返っているような主人公が、ひたすら猪突猛進に突っ走る姿は、巻き込まれたくはないけれど、見守る分には楽しいですね。 

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「本好きの下克上21」 香月美夜

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「無事では済まないかもしれませんが、刺し違える覚悟なら行けると思います」
 ローゼマインとエックハルトの間には、意外な共通点があった。危険志向が似ているのだ。

 公式の第何部の1とか2とかいうカウントだと分かりにくいのですが、通しで数えていくと多分21冊目。第四部も最終巻となり、いよいよ終盤への入り口です。

 王命を受けたフェルディナンドの旅立ちが近づき、ローゼマインはせめてもの選別にとレストランでの食事会を企画した。ところが、その間に何者かが神殿に侵入。4人の灰色神官を誘拐し、さらにはローゼマインの聖典を偽物とすり替えていた。
 拉致された神官たちはどこに連れて行かれたのか? ローゼマインたちの追跡が始まる……。

 楽しい食事会から一変しての追跡劇。そして、潜在的な敵地へ送り出されるフェルディナントとの別離と、浮き沈みの激しい巻ですが、つまりは王権を持ちながらそれを行使できない状況に陥っている王族の無能がいけないんや。

【本好きの下克上21】【司書になるためには手段を選んでいられません】【第四部 貴族院の自称図書委員Ⅸ】【別離から始まる冬の生活】【香月美夜】【椎名優】【TOブックス】【ビブリア・ファンタジー】【しいなゆう】【四コマ漫画】【寄りかかる長椅子】
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